『陶芸窯』
リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
あなたは、ダッキーと一緒に、真っ暗な浴室でお風呂に入っています。
「なんにもないね」
「そうだね、なにも起きないね」
ダッキーとあなたは、浴槽でひそひそ話をしています。
「君がこないだ、話しかけたりしたからじゃないの?」とダッキーが言うと、あなたは、黙ってしょんぼりとうつむいてしまいました。
「ま、そんなこともないんだろうけど…」
いつもは強気なあなたの意外な反応に、慌てたダッキーはいたわるようにあなたの二の腕に触れました。
うつむいたまま、あなたは泣いているようにも見えます。
しばらく、浴室にすすり泣く声が聞こえていました。
「窯、買ったんだってさ。陶芸窯」
─何を言っているのか分からない─と言った風に顔を上げたあなたを一瞥し、ダッキーはこう続けました。
「陶芸彫刻を本格的に再開するんだって。『作者』が…」
「そう…」
浴室に沈黙が訪れました。
ピチャ、パシャ
ダッキーがハネで水面をなでる音が響きます。
「終わらないよね…」
「終わらないさ!」
ダッキーは思わず大声を上げました。
そして、浴室は更に重い沈黙に包まれました。
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