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リトル・ダッキーのおはなし

『マイキーの訪問』

「Hi! Ducky.」
  突然誰もいないはずの浴室で誰かに名前を呼ばれて、ダッキーはビクッとし
て振り向きました。
  あたりを見回しましたが、浴室の中にはやっぱり誰もいません。

 リトル・ダッキーはちいさなあひるのおもちゃです。
  いつも、あなたのお風呂に浮かんでいます。
  でも、この時間にあなたが家にいるわけはありません。今ごろあなたは会社
で上司の悪口を言っているか、後輩いびりをしているはずだからです。

「Hey! Over'ere!」
  ダッキーは声のする方を頼りにお風呂の淵によじ登り床を見下ろすと、小さ
な緑ガメが笑顔で手を振っていました。
「だ、誰だよ。お前、なにしてんだよ。そんなとこで」
  威勢の良い口ぶりとは裏腹に、及び腰のダッキーは声も心なしか震え気味で
す。
「Nothin'. I'm just chillin'.」
  緑ガメは、笑いながらダッキーを見上げています。
「Hey, can I come up there?」と言いながらもう既に上ってきている緑ガメ
にダッキーは「べ、別にいいけど…」と口のなかでモゴモゴいいながら後ずさ
りすると、そのまま足を踏み外して浴槽にジャボンと落っこちました。

 のそのそゆっくりと動く緑ガメが浴槽にたどり着いたのは、それから2時間
後のことです。

「Hey...huu..huu..nice..huu..meetin'ya. I'm...Mikey...」息を切らして緑
ガメがこう言いました。
「マイキー?なんで僕の事知ってるの?」身構えたままダッキーがこう尋ねる
と、「Hey, man. You're famous on the net.」と緑ガメのマイキーが答えま
した。
「ネットで有名?僕が?」ますますダッキーは訳がわからなくなりました。

 緑ガメのマイキーの説明によると、ダッキーはあなたがウェブサイトで配信
しているオンライン小説の主人公で、ネットで熱狂的なファンもいるとの事で
した。
  ダッキーは、突然の事だったので、何がなんだか分からないままです。

「It's great to finally get to meet you, man.」と大げさに握手を求めて
くるマイキーに、ダッキーはやっぱり困惑の表情のままでしたが、なんか自分
が本当に有名人になったみたいで、ちょっとだけ嬉しくもありました。

「で、君はここへ何しに来たの?」
  ようやくちょっとだけ心に余裕の出てきたダッキーは、マイキーにこう聞い
てみました。
「I got a great news for you. You're a very lucky man. Very lucky.」
  突然現れた緑ガメにラッキーだと言われてもちょっと実感がわきませんでし
たが、ダッキーはそのまま黙って話を聞くことにしました。

「How do you feel...if you hear the news that you've been chosen as a
spokesperson for one of the largest multi-national corporates of world
's best selling toothpaste? Huh? Are you excited? I bet you're excited
!」
「え?あ、でも、歯磨きの広告スポンサーがついても、僕、歯がないし…」
「Don't worry about it. Do you really believe that those celebrities o
ut there ACTUALLY USES the products their advertising? Do you really r
eally think Fumiya drinks coffee whith that "Creap"?」
  なんだかうさんくさいなとも思いましたが、マイキーの話術に乗せられて、
話はとんとん拍子に進んでしまいました。

「You'll just need to sign here, here...and here, and everything's g
onna be all set. I'll see you in next week to give you all the free pr
oducts from us, okey?」
  そういって、緑ガメのマイキーは帰っていきました。

 ダッキーは、「広告の世界って、ちょっと怖いな」と思いましたが、「あの
歩くスピードで、本当に来週までにもう一度戻って来れるのだろうか?」と、
ちょっとだけ心配になりました。